当法人は、現在看護専門学校3校の学生実習を受け入れております。
各学校により、来る曜日や回数の違いはありますが、在宅看護の現場を肌で感じてもらい、在宅生活において訪問看護の役割を感じてもらえたらなと思っています。そして看護学生が看護師になった暁には、一人でも多くの方が就職先として『訪問看護』を選択して欲しいと願っています!!
さて、昨年度、岡山・建部医療福祉専門学校の学生実習を受け入れておりましたが、その中で実習を終えて書く「看護観論文」がステーションへ届きました。学校や学生本人にも許可を得ましたので、ご紹介させていただきます。
【患者に寄り添うとは】
私は看護を学び始めてから「寄り添う看護」とはいったい何だろうと考えていた。皆簡単にこの言葉を使っているが本当に寄り添う看護はできているか。そしてこの言葉の本質はなんなのか。自分自身の体験を元に話していきたい。
今回ここに記す患者は私の看護観に多大な影響を与えてくれた方々ある。
その患者Aは私が在宅看護学の臨床実習で出会った。ホームレス生活をしていたところ倒れてB病院に搬送。そこで癌末期の診断を受け入院の措置を受けるが離院。ホームレス生活を再開した後、ホームレス支援団体に保護されて住居を確保した。私はその初回訪問に同行した。Aさんは貧血及び低栄養が進行しており、癌性疼痛による痛みに顔をしかめていた。座っていられるのが不思議なくらいの状態であった。「わしはこんなとこおりとうない。訪問看護なんかいらん」と最初は訪問看護に対して否定的であった。そして「一人で死なせてくれ、かまうな」と言った。それに対し同行していた医師が「そっか、そういう風に思っているんだね」とうなずきながら聞いていた。その後一旦訪問看護の話からは話を外し、離院の話について話すと離院後、看護師に捕まったと話し、「そっか、外に出たんだけど捕まったか」と医師が言うとAさんは「そうなんよ」と笑い、そこにいた職員みんなで笑いながらAさんの他の話も聞いていた。最初あった重い空気が嘘のようであった。話を聞いていくと、お金がないため治療費が払えないと思い離院したと話した。そしてこのやり取りの後、Aさんと私たちとの心の距離感が徐々に近づくのを感じていた。その後医師が今つらいことを聞くと「もう食べたくても食べれんのが一番しんどいな。体もだるいし」と自分のつらいことについて少しずつ話し始めた。それを何も言わずゆっくりと目を見て医師は話を聞いていた。すると「死にとうない。死ぬのが怖い。助けてくれ」と最初拒否していたAさんが訴えた。医師と看護師は痛みや辛いことを少しでも軽減できるようにすると約束し、初回訪問は終了した。これにより訪問看護の導入が決定した。最初は無理に訪問看護を進めるのでなく、まずは患者との信頼関係を作ったうえで患者様の訴えを受容する。これこそ「患者に寄り添う」ということではないか。
その後、訪問看護に同行した際、肩の痛みを訴えたのでマッサージを行った。患者の肩は今にも折れそうなくらい細くなっていた。マッサージを終えると「ありがとう」とお礼を言ってくださった。後に聞いた話であるが、訪問看護師が訪問するたびにAさんは「あの学生さんは今日は来てくれないんか?」と言ってくれていたらしい。私はこんなに辛そうにしている患者にマッサージくらいしかできないのかと無力感を感じていたがそんな私でも必要としていてくれてることが、すごくうれしく感じた。
また別の日に訪問すると、「今日は二回来てくれるんよな。頼むよ」とおっしゃっていた。Aさんは看護師を頼ってくれるようになっていた。この方は人に頼ったりするのが苦手で本当は苦痛から逃れたくても死ぬのが怖くても、それに反した態度をとっていた。その患者様の本当の想いが表出できるように関わり、表出することができたら、その思いを受け止め、その思いに対し患者様のニーズを満たすことができるような援助を行うことが本当の意味で「患者様に寄り添う」ということではないのか。だからこそ軽く「誰かに寄り添う看護がしたい」と言ってはいけないのではないかと考える。
私もこの訪問看護ステーションのスタッフのように患者さんの思いを聞き出し、「誰かに寄り添うことができる」という言葉の本質を自分で見いだせる看護師になれるよう経験を積んでいきたい。
最後に患者の同行を了解してくださった患者、お世話になった訪問看護ステーションのスタッフに感謝をし、この看護観を終える。
【管理者岸本より】
今回、ご紹介させていただいた看護観論文の利用者様Aさんは私たち訪問看護師にとっても大変印象に残るご利用者様でした。
日常の生活から逸脱し、人生の途中から人と離れて独りで生きてきましたが、皮肉なことに命を脅かす病気になったことで幸いにも人との関わりを取り戻したのです。
助けて欲しいという感情により、他人との繋がりを取り戻し短い余生を全うされたAさん。その想いや気持ちの変化に気づき、学生自身が手探りの状態だった『寄り添う看護』についての『言葉の本質』を学生さんの言葉で表現してくれました。ともに訪問し看護の道を歩む者としては、こんなにうれしいことはありません。